alt

デリーで立ち上げたベンチャー事業

起業家・本村拓人は今、インドの首都デリーでベンチャービジネスに挑んでいる。2015年9月に立ち上げたローカル・コンシェルジュサービス「LOCCO」(ロッコ)は、Webを通じて日常の生活課題を解決するサービス業者と生活者とをつなぐ「オンラインの便利屋」だ。

家庭の水道管やエアコンの修理、家事や買い物の代行、旅行代理店でのチケット購入など、インドではあらゆるサービスのクオリティにばらつきがあり、仕事の時間感覚もアバウトだという。こうしたインドの環境の中で、「LOCCOは信頼ができてスピーディーに仕事をこなす業者を選び、紹介します。結果としてユーザーには『生活の質の向上』、そしてサービス業者には『クオリティに見合った売り上げの増加』を提供することを目指しています」と本村は話す。

日本の文化をインドに伝える

主なターゲットはインドの富裕層。「従来はサービスの質にあまりこだわらないのがインド流でしたが、急速な経済成長で台頭してきた中上流層は、サービスにより高い水準を求めるようになってきています」

これまでアジア8カ国で事業を展開してきた本村は、海外生活の中で日本のサービス水準の高さを実感。インドに内在する問題の解決を模索していた時に、日本流の「顧客の想像を超えるサービス」という「文化」を伝えることができるのではないかと思いつき、LOCCOを始動したのだった。

また、貧困層が多いインドの都市部に雇用を創出することもLOCCOの大きな目的だ。本村は2009年に、「世界の貧困問題を、事業を通じて解決する」という大胆な目標を掲げて、東京で会社を立ち上げた。それから7年後、なぜインドに渡ることになったのだろうか。
motomura1

NY留学から世界放浪へ

16歳の時に、本村は起業家になることを決めた。18歳で名古屋に人材派遣の会社を起こしたものの、企業運営の知識が足りないことを痛感、その後ニューヨークへ留学し経営を学んだ。

留学中には、インド亜大陸の東端・バングラデシュの首都ダッカからアフリカまで、電車とバスを乗り継ぐ陸路の旅をした。この旅でたまたまインドを通り、そこで見た貧困が、本村の人生に大きな影響を与えることとなる。

「道行く人にお金の無心をする、物乞いの子どもたちの姿に衝撃を受けました。資本主義経済が生み出す負の側面を目の当たりにし、どうすれば物乞いが生まれない社会、あるいは、生まれても自立できる機会を作り出すことができるのか?と自問するようになりました」

その後の旅を通じ、途上国で貧困問題や根深い地域の社会問題に対して、革新的な事業を創り出す様々な起業家たちと出会ったことにも影響を受け、本村は「事業を通じた貧困問題の解決」という目標を立てることになる。
motomura2

BoPの層の自立を支援する企業、「GRANMA」の結成

09年に帰国した本村は、同じように学生時代に途上国を旅して問題意識を持った仲間とともに、「GRANMA(グランマ)」を起業。当時注目されはじめていたBoP層 (Base of the Pyramid=経済的底辺層、購買力平価で換算した年収3000ドル未満の層)をターゲットに、彼らの生活の質の向上に貢献できるモノやサービスの開発を志した。

「従来の、金銭やインフラを一方的に援助するだけの途上国支援では、支援を受ける側が自立できず、援助が終わるとまた元の状態に戻ってしまうという根本的な問題点がありました。双方にとってメリットがあるビジネスのスキームこそ必要だと思い、BoP事業に興味を持ちました」

世界を変えるデザイン展

翌10年、GRANMAは「世界を変えるデザイン展」を東京ミッドタウンで開催し、一躍脚光を浴びた。簡易ソーラーシステムや水の濾過装置、ゴム製の義足など、現地で製造可能かつ安価で革新的なプロダクトを世界中から集めた画期的な展覧会だ。

企画展運営の経験はまったくなかったが、思い立ったら即行動に移す本村の熱意が多くの人々を動かし、この展覧会は入場者数2万人を超える大盛況となった。ここで得た手応えを信じ、本村は活動を海外に広げて行く。
motomura3

グラスルーツ・イノベーションと、挫折

海外では民間の草の根から生まれた発明「グラスルーツ・イノベーション」に焦点を当て、現地生産で低価格、かつ地域経済にもメリットのある生理用ナプキンなどの製品販売に力を入れた。社員を各地に駐在させ、アジア8カ国で事業を展開。多くの政府機関や団体、企業と連携し、数十件のプロジェクトに関わった。

しかし、BoP市場はまだ熟しきっておらず、現地パートナーとの提携や、現地生産による製品販売事業の収益化は難航。一部のプロジェクトは継続しているものの、GRANMAは方向転換を強いられることになる。

喧噪と熱気の街、デリーへ

本村は、今まで取り組んできた直接的なBoPビジネスから一旦距離を置き、起業のきっかけとなったインドに拠点を移すことを決意する。貧困の解決という目標に向かう回り道となったとしても、まずはインドの市場を入念にリサーチし、独自事業の開発に取り組むことにしたのだ。

同時に、海外生活をする中で日本人としてのアイデンティティも強く意識するようになった。「日本のユニークな点は(1)先端技術(2)サービスとホスピタリティ(3)独自文化の醸成と海外文化とのブレンディング——の3つです。この強みを生かすことこそが、日本人が海外で貢献できる道になる」。そこでインドでは、まず日本人にしかできないサービスや技術提供の可能性を探ることにしたのだ。
motomura4

貧困とは想像力が枯渇した状態

本村は、「貧困とは想像力が枯渇した状態」と定義する。ふつう、貧困という言葉は経済的に貧しい状態にある人々を示す場合が多い。しかし、本村はこれまでの旅や仕事を通じ、経済的弱者でも想像力にあふれた生活をする人々を数多く見てきた。その一方で、日本のような先進国でも、溢れる情報に翻弄され、日常を楽しもうとする想像力を失っている人々が多いと感じている。

つまるところ、誰でも貧困に陥る可能性と、そこから脱却する可能性を秘めているのだ。本村は、豊かな想像力を持つことの大切さを伝え続けることが、自らの使命だと思っている。

「世界の貧困問題を、事業を通じて解決する」という壮大な目標へ進み続ける本村の、人生の中心にはいつも旅があるという。 「異文化に触れる旅という体験が、僕に想像力を与えてくれました。自分の旅を終わらせないために、僕はずっと動き続けているんじゃないかと思います。これからも多くの人や文化と出会い、旅を続けたい」
motomura5-1

本村拓人×コーヒー

「起業家になると決めた16歳からコーヒーはよく飲んでいます。カフェがいつも僕の想像を生み出す場所でした。少し焦げたコーヒーの匂い、様々な人が集まる場、そしていつも手にしているメモ帳、この3つが揃う空間が想像力をかきたてます。自分の事業や企てごとの多くはコーヒーと共に生まれています」。

インドでも毎朝自分で淹れたコーヒーを飲んでいるという。現地では紅茶にミルクとスパイスを入れて煮だしたチャイが主流だ。お店でコーヒーを頼んでも、非常に濃く煮だされた苦いコーヒーに砂糖をたっぷり入れて飲むのが普通。そんなインドでも、香ばしく爽やかなコーヒーの匂いがすぐそこの街角に漂う日は、そう遠くない未来にやってくるのかもしれない。

クーリエ・ジャポンで連載開始!

「クーリエ・ジャポン」で、インドに暮らす人々の「意識」や「独自のルール」を紹介する連載が、2016年4月27日よりスタート!トップページ→MEMBERS→COLUMNSよりご覧ください。
https://courrier.jp

TEXT田川基成/PHOTO塩田亮吾

BACK NUMBER

  • 手塚新理_01
  • 丸山ゴンザレス_02
  • 濱口竜介_03
  • 木村 肇_04
  • 岡部勝義_05
  • 比嘉一成_06
  • 菅原敏_07
  • 本村拓人_08
  • 馬場真哉_09
  • 谷よう子_10
  • 丸山裕太_11
  • 久保友則_12
  • 森永泰弘_13
  • 佐藤りえ_14
  • 滝沢達史_15
  • 生形由香_16
  • 鈴木恵美_17