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わずか3分間のイリュージョン

東京スカイツリータウン・ソラマチにある「浅草 飴細工  アメシン」。その工房で、飴細工師・手塚新理が作品づくりの準備を始めると、買い物客が吸い寄せられるように集まり始めた。90℃に熱した飴を素手で触る手塚に、「熱くないんですか」と尋ねると、「もう慣れていますから」と涼しげな表情。

「ここから3〜4分が勝負です。あまり時間をかけると飴が固まってしまいますからね」

 迷いのない動きに見とれていると、次第に金魚の輪郭が見えてきた。側面をつまみ、薄い板状にしてから鋏を細かく動かしてヒダを作っていく。この技術が手塚の真骨頂だ。いつの間に3分経ったのか、美しいレースのような尾びれを携えた金魚が、手塚の手の中から愛嬌のある表情でこちらを見つめていた。

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「刺激のあるものづくり」を求めて花火師の道へ

手塚は現在27歳。その経歴は異色だ。高等専門学校在学中に、「刺激のあるものづくりがしたい」と花火製造会社でアルバイトを始め、卒業後はその会社に就職。晴れて花火師としての道を歩み始めたが、1年後にあっさり会社を辞めてしまった。

「日本には素晴らしい技術を持った花火師の方々がいます。でも今は、海外の工場でいかに安く大量に作るかが優先される。ものづくりの技術が大量生産の波に浸食されていく現場を見て、残念に思いました。自分が求めるものづくりの形をもう一度見つめ直したくて、花火師を辞めることにしたんです」

実家に戻り、次は何をしようと考えるなかで興味を持ったのが飴細工だった。「飴細工はお客さんの目の前で造形をするでしょう。ごまかしがきかないし、作っているところも1つの魅力として発信できるのがいいなと思いました」

インターネットで調べると、飴細工の体験教室を行っている店があったので訪ねてみた。しかし、「コンテンツとしては面白いのに、もったいないと感じる部分が多かった」という。手塚は「独学の方が面白いものができるかもしれない」と考えて、部屋に引きこもって研究を始めた。

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“とんでもないもの”が仕上がる面白さ

飴を使って思い通りに形が作れるようになったのは数カ月後。しかし、飴細工師を名乗ったところで、仕事が舞いこんでくるはずもない。そこで、まずはホームページを立ち上げることにした。内容はずいぶんハッタリをきかせたものだったが、手塚には、「この業界を面白くしていけるはず」という自信があった。

「日本の飴細工は時間との勝負。大道芸としての見せ方を要求される世界でもあります。だから、完成度にこだわらない人も多いんですね。動物でも植物でも、デフォルメしてかわいい感じの雰囲気にしてしまえば、仕事が楽なんです」

手塚が従来の飴細工に対してもったいないと感じていたのは、まさにこの「デフォルメする」という部分だった。

「完成品がどんな形であれ、何の変哲もない飴のかたまりから造形が生まれるというのは、見ていて面白いものです。じゃあ、予想外のものが仕上がればより面白いじゃないかと考えました。短時間で完成させるけど、写実性にもこだわる。飴細工師として活動する上で、そこから逃げないようにしようと思いました」

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ものづくりの街・浅草へ

浅草に店を構えたのは2013年。伝統芸能や職人文化が息づくイメージが強い街だが、手塚が出店するまで、浅草に飴細工職人は1人もいなかったという。

 新しい技術を使ったアートイベントへの出演や、百貨店の周年記念のための作品づくり。今までにない仕事を依頼されることも多く、仕事が認められてきたという実感はあったが、同時に「飴細工でもっと面白いことができるはず」という野心も感じていた。

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東京スカイツリーからのラブコール

「東京スカイツリータウン・ソラマチに出店しませんか」

オファーを受けたのは、2015年の春のこと。本店の運営方法やソラマチに来店する層に向けた商品開発など、懸念点は山ほどあったが、最終的に出店することを決めたのは、「環境を一気に変えるチャンス」と考えたからだ。

 その読みは当たり、ソラマチへの出店以降、1人しかいなかった弟子は7人に増えた。人手が増えたことで、「店としてできることが変わってきました」と手塚は言う。

 また、海外でのイベント出演の依頼も増えた。海外での反応について手塚は、「昨年はニューヨークに行きましたが、あちらでは私の作った金魚が何でできているのか分からない人が多いんです。正解を伝えると、『飴でこんなものを作るなんて、日本人はやっぱりクレイジーだ!』という驚きの表情で見られましたよ」と愉快そうに話す。

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変わらない「ものづくりの楽しさを伝えたい」という思い

ソラマチ出店と同時に立ち上げたのが、「手塚工藝株式会社」だ。なぜ、ずっと使ってきた「アメシン」を社名にしなかったのか尋ねると、「私たちが表現したいことを突き詰めていったら、『アメシン』ではいずれ窮屈になるからです」とニヤリ。「今やっていることが、ものづくりの新たなジャンルになっていくという期待もこめて、『手塚工藝』としました」

 未来予想図はどこまで広がっているのか。「それはまだ内緒」と言いつつ、「活動の幅が広がっても、より多くの人にものづくりの面白さを知ってもらいたいという思いは変わりません」ときっぱり。「お土産として喜ばれる『商品』も、見た人をあっと驚かせる『作品』も、どちらも大事。今後も、自分が面白いと考えるものづくりを続けていきたいですね」

 しっかり前を見据えてそう語る目の中に、ユラユラと燃える情熱の火が見えるようだった。

手塚新理×コーヒー

浅草本店は、飴細工づくりの体験を楽しめるほか、喫茶室としての利用もできる。道路をはさんだ向かいにある今戸神社に参拝後、ちょっとひと息つくのに立ち寄る客も多いという。人気のメニューは、みつ飴を入れて飲む「飴コーヒー」だ。コクのあるみつ飴が、のどをスルッと滑り落ちる感覚が面白い。

TEXT東谷好依/PHOTO塩田亮吾

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