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世界のスラムを歩くジャーナリスト

朽ちかけた家屋が連なるフィリピン・マニラのトンド地区。濁った水が溜まり、ゴミが散乱するスラムの道を、丸山ゴンザレスはズンズン進んで行く。ふいに轟く銃声にも、「我々に対する威嚇でしょう」と余裕の表情だ。

ルーマニア・ブカレストの地下に広がるスラムでは、ボスに招かれ食事をともにする。食卓は衛生的とはいえないが、そこに暮らす人たちと同じものを食べて、信頼を得るのが丸山のやり方だ。

2015年春に『クレイジージャーニー』(TBS系列)の放送が始まると、そんな姿に多くの視聴者が惹き付けられた。最近では街なかや空港で声をかけられることも多いという。しかし、テレビに映る姿は、丸山のほんの一面にすぎない。

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いくつもの顔

「海外取材に行ってきたと話すと、『いつ放送ですか』と聞かれることが多くなりました。でも、1年間の取材のなかでクレイジージャーニーが占める割合は、実は半分以下なんですよ」

海外の危険地帯を訪れ、足でかせいだ情報をもとに雑誌の記事や本を書くのが丸山の仕事の一つだ。あえて「一つ」と書くのは、ほかにもさまざまな仕事を手がけているからである。

ジャーナリスト、書籍編集者、デザイン事務所の代表、官能小説家など、丸山にはいくつもの顔がある。昨年は母校である國學院大学の学術資料センター共同研究員にも就任した。

作家業だけに専念しない理由について、丸山はこう話す。「僕はもともとビジネス書籍の編集をしていました。その出版社の上司が厳しくて、ひと晩で企画書100本ノックとか、無茶ぶりもされました(笑)。でも、当時20代で書籍編集未経験者の中途採用だった僕に色んなチャンスをくれたんです。チャンスをものにするためには、ひとつのやり方だけではなく、あらゆる視点からアプローチする必要があった。そういう経験があるから、書く仕事にこだわるということはありません。面白いと感じたことを、適切な形でアウトプットできればいいと思っています」

とはいえ、関わる仕事が増えればその分時間もかかる。幅広いジャンルの仕事を、どのようにこなしているのだろうか。

「複数の仕事を並行して走らせるのが僕のやり方。A案件は1割、B案件は2割という風に、毎日少しずつ進めていきます。1つを終わらせてから次に取りかかろうとすると、結局どれも終わらなくなってしまいますから」

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旅の夜は“ひたすら仕事”

出張中でも普段と同じように仕事をするため、「僕の荷物の3分の1をPCや資料が占めています」と丸山は言うが、果たしてそんな時間はあるのだろうか。何となく、朝早くから取材に出かけて、夜は豪快に飲み歩くというイメージがあるが……。

「僕が行く地域は、夜になると危険さが増すのであまり出歩けないんですよ。だから、夜はホテルで粛々と仕事をするぐらいしかやることがない。旅と全く関係のない仕事をしていることも多いです。ニューヨークの安宿で、小さいベッドの上にパソコンを置いて、横になりながら芸能コラムを書いたこともありましたね」

インフラが整っていない地域も多く、インターネットにアクセスできないことを前提に準備をしておくのは当たり前。ただし、必要に迫られた時は、仕事ができる環境を求めて宿を変えることもあるという。また、たとえ環境が整っていても、想定外の苦労に見舞われることもある。

「ケニアのホテルでは部屋でwi-fiが使えませんでしたが、ロビーでは繋がることが分かりました。ところが、いざ仕事をしようとすると、蚊が大量に寄ってくるんです。マラリアの発生率が高い地域で、あまり蚊に刺されたくなかったので、メールを1通送るのにも苦労しました」

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作家デビューのチャンス

丸山が初めて海外へ旅に出たのは20歳の時だ。ムエタイの修行を目的にタイを訪れてから、バックパックを背負って世界のあちこちを巡るようになった。

丸山は「作家になろうとは考えてもいなかった」し、大学院修了後には“暗黒の時代”も経験したという。当時はデフレの真っただ中。友人と酒を飲みながら、旅先で見た面白い光景について語ることしか楽しみがなく、「あの頃は毎日が本当につまらなかった」と話す。

居酒屋でたまたま隣に座っていた編集者から、「今話していた旅のことを書いてみないか」と声をかけられたのはそんな時だ。することもなく、「暇つぶしと思って」原稿を書いたところから、人生が大きく方向転換を始めた。

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割に会わない労力が人生を変えた

才能ある若者が見出され……というシンデレラストーリーを地でいく丸山だが、単に運がいいのとは違う。チャンスを得ても、実際に本1冊分の原稿を書き上げる人はほぼいないからだ。

処女作の「アジア『罰当たり』旅行」が出版されるまでのことを、丸山は「会社から帰宅して、原稿を校正したり加筆したりする日々が半年くらい続きました。いま計算すると、その時もらった原稿料と労力は全く見合っていないなぁ……」と笑いながら振り返る。それからこう続けた。「でも、人生が変わるときには、割に合わない労力を割く必要があるのかもしれませんね」

丸山の著書を読んで、その行動力に憧れる人は多いだろう。世界のあらゆる場所をこの目で見てみたいとは思っていても、なかなか最初の1歩を踏み出せないものである。

ましてや、丸山が訪れるのは常識が通じない場所。危険であると知りつつも踏み込んでいく情熱は、どこから生まれるのだろうか。インタビューの終わりに、丸山はその答えをこんな風に語ってくれた。

「20代半ばまでの旅の経験が、今の生き方のベースになっています。次の分かれ道を右に行くか左に進むか、選択次第で旅が大きく変わる経験を重ねてみると、見通しのよい道は選ばなくなっていた。仕事でも旅先でも『大胆な選択をしますね』とよく言われますが、僕にとっては一番面白そうな道を選んでいるに過ぎないんです」

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丸山ゴンザレス×コーヒー

「僕が取材に行く地域は、大体コーヒーがうまい」と丸山は言う。フィリピンやケニアなど、コーヒー栽培の盛んな国に行くことが多いという意味だ。しかし、どこでも美味しいブラックコーヒーが飲めるかといえば、そうではないらしい。「ケニアでは、コーヒーにミルクをたっぷり入れて甘くして飲むのがスタンダード。そうと知らずに田舎のカフェでコーヒーを注文したら、店の人が『ミルクが切れているから買ってくる』と走って行ってしまいました。僕は甘い飲み物が苦手なので、ミルクはいらなかったんですが……」。数十分後に提供された甘いコーヒーを、丸山は腑に落ちない気持ちで飲み干したという。「もちろん、ミルク代はきちんと支払いましたよ」

TEXT東谷好依/PHOTO塩田亮吾

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