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型染めという技法にかかる多くの手

アトリエの奥行きいっぱいに長い布が広げられ、型紙が置かれた。松永武の手によって、流れるように手ぬぐい7枚分の糊が伸ばされる。「糊置き」という工程を経た布は、生地を縦方向に引っ張る張り手と、生地の巾を一定にし、しわを防ぐ伸子(しんし)という道具でぴんと張られ、空中で乾かされていく。

「型染めは、下絵を描くところから始まります。それを渋紙という和紙に貼り、刀(とう)で下絵を彫って型紙をつくる。糊置きは、下絵を描き型紙を彫った人の担当です。型紙の癖は、やっぱり絵を描いた本人が一番わかっているからです」

松永の作業を穏やかに見つめながら、高井知絵は話す。つまり、今、乾かされている手ぬぐいのデザインは、松永の手によるものだ。

糊が乾いたら、いよいよ染め。染料が刷毛で塗られると、糊置きした部分以外に色が入り、生き生きとした絵柄が浮かび上がってくる。差し色は、ひとつひとつ筆で塗られる。一枚の手ぬぐいに関わるすべてが、2人の手作業によるものなのだ。

学園祭での販売がkata kataのルーツ

現在kata kata(カタカタ)というユニットを組む松永と高井。彼らは、デザインや制作物の種類によって型染め・注染・プリントと3種の染め方を使い分け、オリジナルの染布を製作している。中でも「型染め」は、はっきりと色鮮やかな表現ができるのが特徴。彼らが制作のメインに据える染色技法だ。始めたきっかけは、「美大で習った」というシンプルなものだった。高井の父は染色作家だが、その仕事内容を高井自身、詳しく知らなかったのだという。

「在学中、大学の友人と私の実家へ遊びに行って、父の染め方を初めてきちんと見たんです(笑)。父が、経験から体得した手法はとても新鮮でした。父の手法を参考に、大学で改めて型染めに取り組むと、表現したいものが上手く染められるようになり、すぐにのめりこみました」

型染めの面白さに気付いた2人は、ユニットを組み、さまざまな大学の学園祭で出展を始める。手ぬぐいやTシャツを染めては、来場者と会話して販売し、手ごたえを感じた。各地のクラフトフェアや、マーケットに出展する今も「自分たちが手がけたものを、お客様の顔を見て販売する」という基本は変わっていない。

会話の糸口になる「物語」

「僕たちは、初めから対面販売していたこともあって、“自然と会話が生まれるデザイン”を心がけてきました。今日染めたナマケモノの手ぬぐいは、顔の周りだけ木の葉がありません。ナマケモノは1日にたった8gほどの植物しか食べないというエピソードが面白くて、食後を描いてみたんです(笑)。そんな小さな物語を潜ませると、お客様との会話が弾み、作品をじっくり見ていただける気がします」と松永。

物語を大切にするkata kataは、イベントやワークショップという形で、染めの過程を見てもらう機会をつくっている。それも、作品にまつわる大切なストーリーのひとつだ。

ふだんは2人の作業場であり、時にワークショップの会場ともなるアトリエは、つつじが丘の団地内にある。この場所に巡り合ったきっかけは、イベント企画や書籍執筆を手掛ける編集チーム「手紙社」との縁。2006年に始まった手紙社の主催イベント「もみじ市」に第1回目から出展しており、関係が深まった。

「ちょうど手紙舎(手紙社が経営する店舗)で食事をしていた時に『ここの2軒隣、空いてるよ』と教えてもらったんです。内見してみると、奥行きも天高もある程度あり理想的でした。布が大きく広げられるし、制作拠点になりそうだと感じたんです」

アトリエがオープンしたのは2014年11月。週末の3日間はショップも開かれ、ファンが全国から訪れる。

互いの個性を引き立て合う関係性

アトリエで作品を見ていると、動物や風景などのモチーフが多いことに気が付く。「僕は、大学の卒業制作のテーマが『動物と植物』だったので、まだそのテーマを追求し続けているのかもしれません。描きたいモチーフが決まったら、図鑑などを見て本物と離れすぎないようにデフォルメします。絵を描くときは、他のものから影響を受けないように、なるべく情報は遮断していますね」と松永は言う。

一方、高井は「(松永)武さんは、自分の中にテーマがあって、好きなものを描くというスタンスを貫いていますね。私は逆に、卒業制作のタイトルを『無題』にしたくらい、染めることは好きだったのですが、テーマを一つに定められなかったんです。テーマが決まっていると、アイデアが湧いてくるので、今でも、個展やクラフトフェアの主題に合わせて、どんな作品にしようか考えるのが好きですね」と話す。

大学の卒業制作には順位がつけられ、染めの1位には松永が選ばれた。「作品そのものは、私の方が上だったと思う!」と笑う高井。2人はユニットで活動しながらも、学生時代からのライバルでもあるのだ。

「もちろん今もライバルですよ(笑)。でも、最近はユニット内での関係性が変化してきた気がします。様々な立場の方とお仕事をすることで、武さんと私、それぞれの良さを引き出し合いながら、使う方の立場でデザインを考える機会が増えました」

縁で広がる世界と型染めという原点

kata kataは、染めものの制作にとどまらず、デザイン提供も多く行っている。日傘や雨傘、ふろしき、和紙のポストカードなど、幅広いプロダクトでそのデザインを楽しむことができる。

「いただいたお話に自分たちなりの答えを出すことで、kata kataの世界が拡がっていくのを感じて、とても楽しいんです。同時に、布以外のプロダクトで自分たちのデザインを見ることで、原点である型染めについて深く考えたり、大切にできたりする。相反するようで不思議ですけど、それもうれしい」と話す高井の笑顔から、型染めへの愛着が伝わってくる。

最後に、松永に今後の展望を尋ねてみた。「この先は……身に着けるものをつくってみたいですね。僕たちの絵は洋服にすると派手かなと思っていたのですが、最近馴染んで見えるようになりました」

この日着ていた服も、2人の絵がプリントされたものだ。衣食住に広がろうとする作品たちが、kata kataの世界観に魅せられた人びとの暮らしを彩っていく。そんな光景が、目に浮かんで離れない。

kata kata×コーヒー

「2016年のクリスマスに、手紙社のコーヒーパッケージをデザインしました。私は毎日コーヒーが欠かせないのでうれしかったですね。でも、武さんは最近までコーヒー飲まなかったよね」。高井にそう水を向けられた松永は「でも、あるクラフトフェアで北海道の『森彦』のコーヒーに出会い、美味しさに目覚めてからは毎日飲んでいます」と笑う。

「フェアに出ると、コーヒーはもちろん、気になるカップを見つけては買ってしまうんですよね」と言う2人の作業場の棚には、お気に入りのカップが美しくディスプレイされていた。活躍の場を広げるkata kataのログであるそのひとつひとつが、出番を静かに待っている。

TEXT岡島梓/PHOTO西田優太

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